20170713

マノさん


ふみさん







2017年4-6月ボカロアルバム選  ※長い


※各タイトルは敬称略


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amahisa「SPIRAL」

自分は本作のようなリーディング主体のアルバムの良きリスナーではない。なにしろ歌詞や台詞を能動的に聴き取って作品を理解しようとするタイプではないので、言葉が重要な本作について何かを語る資格はないだろうと思う。でも僕はこのアルバムを何度も好んで聴いてしまう。言葉をスルーして何度も聴いてしまう。

なによりトラックが魅力的だからだけど、表面上の飾りではなく、どの曲のトラックにも共通してある、深くて、大らかで、ゆったりとしたグルーヴに惹きつけられている。それに身を委ねて、ずっぽりと呑まれたくなる。言葉よりも大きなものがそこにあるような気がしている。それは作品の核であり、大げさに言ってみれば生命=エネルギーの源のようなものだと思う。体内回帰とも言っていい。そうしたものを本作から感じ取ってしまう。

数曲がリードトラックとしてニコ動に上がっている。だがどれも単独で聴くよりアルバム一枚を通して聴いてこそ、良さが滲み出る曲だと思う。アルバムアーティストにニコ動は鬼門である。


配布先(現在品切れ中)SPIRAL - amahisa - BOOTH(同人誌通販・ダウンロード)







David k anderson「Goodbye album」

CDリリースも配信販売もされていないウェブ限定アルバム。ニコ動にアップされた曲のまとめ集といった体だが、決して雑多なものではない。アルバム化を前提に曲を作っていたのかと思えるほどの粒の揃え方で、曲順もこれしかないといいうるほどに考え抜かれている。また曲間の詰め、短いインスト曲の挿入なども効果的で、一枚のアルバムとして非常に完成度が高い。そして何より徹頭徹尾オリジナルである。誰とも似ていない音楽世界が縦横に広がっている。

とにかく美しい瞬間が絶え間なく延々と続くアルバムだ。この感じ方は世間的には稀なのかも知れないけれど、嘘偽りなく本作はとても美しい。マイナー趣味でも何でもない。心底うっとりとする。これはなんだろ、映画『メランコリア』で惑星が地球に衝突する瞬間に迫ってくる感動と似たものだろうか。究極の救い。滅亡の美学。終わりのカタルシス。何だかよく分からないが、自分が生きていくのに必要とする音楽であることは間違いない。出会えて良かった。

唯一のマイナス点は本作がウェブ限定アルバムであるということ。高音質音源を売って下さい。お願いします。


David k anderson - Goodbye album - YouTube







Gyari(ココアシガレットP)「RRRepeat!!!」

全1曲69分の大作。20分ほどの既出3曲を再構成して一本化したものなので純粋な初出し大作ではないが、ボカロ曲でこのボリュームは破格だし、ある意味ボカロシーンの大部分を占める若年リスナーの嗜好をガン無視して作り上げた、やってる音楽はジャズだけどスピリッツはロックな大作である。作者自身がデザインしているCDパッケージや同封冊子もこだわりの逸品で所有満足度が非常に高い。

生演奏のジャズ曲ならば、プレイヤー同士で相手の出方をうかがいつつ、インタープレイをじっくりと練り上げ、ソロも悠々と回していくことで演奏時間を延ばしていき、69分を使いきることは可能だろう。しかし生演奏はピアノのみで、しかもリズムセクションは打ち込みでアドリブはきかず、それで69分をもたせるなんてことは並大抵のことではない。だがそれをしっかりやりきれる作者の構成力とサービス精神は本当に特筆もの。脱帽である。

とはいえ、ところどころで冗長と感じる瞬間はあるにはある。ピアノ演奏に物足りなくなる瞬間もある。だが、そう感じた瞬間に曲は次のパートに入ってしまうので、とにかくダレないし飽きない。常に工夫があり、面白さが先行する。本格的にエンジンがかかってくる20分過ぎからはひとつ上のノリに入ってきて、気分は高揚しっ放し、身体も横に揺れっ放しで、もう完全に没入してしまう。こうなれば69分はあっという間。音楽の持つ力にひれ伏すのみ。まいりました。


とらのあなメロンブックスともに完売みたい







Hello1103「Hello1103さんのミクさん」

ニコ動にアップした初音ミクボーカル曲のまとめEP。4曲入り。単独で聴くと①④はパンチ弱めなんだけど、通して聴くと調度よい力加減になるのが不思議。つかみの①、余韻の④と適所に収まっている。全体の色合いはエレクトロニカ系だが、曲そのものは構成・メロディともによく練られていて、よくあるミニマルで淡泊なニカ系ポップ曲とは異なる。とってもボリューミーなものだ。聴き応えがある。通して聴き終わると満腹感がある。

また本作での初音ミクの柔らかいボーカルは、インパクトには欠けるけれど、聴き続けることでじわじわとその魅力が分かってくるタイプのものなのでEPにまとめられて正解。ある程度の量を用意し、時間をかけないと良さが伝わってこないものがある。本作のはそういうミク。


配布先:Hello1103のミクさん - Hello1103(ハローイチイチゼロサン) - BOOTH








ニニヒ「LAND」

歴史に残るロックボーカリストは、ある人にとってはすこぶる極上で、別のある人にとっては不快極まりない歌い方をする。八方美人な歌い方をしない。常に挑発してくる。つまりアクがある。ちょっとやそっとじゃ消えないアクがある。そういったアクを初音ミクはもともと持っているのだけれど、バージョンが上がり性能が良くなっていくにつれ、活かされる機会が少なくなっていた。そんな中、ニニヒ氏はアクを活かしまくって独自の歌わせ方を確立した。

アカンベーしながらロックしているこのナメた感じ。人間をありがたがらない不遜さ。誰にも媚びないふてぶてしさ。これぞ初音ミクだ。アクを出しまくっている初音ミクだ。ある人には快で別のある人には不快な初音ミクだ。聴いた瞬間に「これだぜ!」とガッツポーズして走り出したくなる。そういうものだ。

ニニヒ氏は一貫してニコ動のヒット傾向とは真反対のタメの利いたロックをやりつづけている。これがまたミクの間延びしがちなテンポ感とよく合って、ねばり気のあるグルーヴを生み出している。歌声の音域も高音は避け、中音域に固めているため、いかにもな安っぽいボカロ声にはならない。あるのはバックのハードな演奏に負けないパンチある歌声だけだ。ミク・ミーツ・ロックの新たな地平が広がっている。


配布先:LAND | Ninihi








uzP「嘘吐きの隣で」

本作は新譜ではなく旧作のリメイク版。ただし改良点はミックスやマスタリングだけに留まらず、おそらく演奏・音源の総入れ替えに及んでいて、旧作を聴き込んでいた人にとっては、ほぼ別作品に聴こえるほどの変わりっぷり。曲順は変わってないが、1曲抜いて最後に1曲足したので、この点でも印象は旧作と大きく異なる。個人的には「新作」と捉えている。

とにかくひとつのひとつの音の輪郭がはっきりし、すべての出音が明快なので、ラウドな迫力は増しても音が濁ることなく、気持の良い圧があるのみで息苦しい感じがまったくない。とても澄んだ音世界だ。広々としていて開放感もある。ミクとGUMIの歌声もよく通り、ハードでノイジーな演奏をバックに歌うことで、美メロがより際立つものになっている。言わずと知れた名曲⑨はこの新バージョンで再び世に問うべきではないか。曲に新たな生命力が宿っている。ラス曲にして新曲の⑪にはチルさがある。クールダウンに良い感じ。アルバムリメイクの成功例。


配布先:嘘吐きの隣で - uz - BOOTH








yeahyoutoo「130429​~​160726」


yeahyoutoo氏がケイシャー名義だった時に発表した曲の自選作品集。ニコ動で埋もれまくった名曲の作品集といっても過言ではない。埋もれた原因を考えるに、エキゾからメタルまでを横断するジャンルレスな作品性が早すぎたというのは確かにあるが、遅すぎたという面もあると思う。2008-2010年頃のニコ動なら今よりもリスナーの年齢層が幅広く多様性があったため、何だか分からなくても面白がれる耳の持ち主に発見されブレイクしていた可能性はある。投稿タイミングの点でツキがなかったと思う。

どの曲もオリジナリティあふれる力作ぞろい。何ともいえない懐かしくて暖かくて寂しげな情感が漂う「窓際の宇宙」、ラテン・ファンタジーとでも評したくなる「衛星」、エレクトロニカな音空間にVY1のエロチシズムが充満する「笑う貴方」などじっくりと聴き込みたくなるものばかりだ。その中でも「wasted phantasmagoria​」は衝撃の1曲で、僕はいまだに「何だこれは!?」以外の感想が出てこない。時空を超えて転送されてきた異星のヒット曲ではなかろうか。しゃべるようにフロウするラップのあり方も先走りすぎている。


配布先:wasted phantasmagoria(from[ask your own]) | yeahyoutoo








やっぱロドリゲス「まほろば」

配信でリリースしていた「ぼかろば」「ぼかろば2」を元に曲を追加したうえで再構成(リミックス&リアレンジもか?)したCD2枚組アルバム。この御時世に生演奏中心のナチュラルな音作りはとても贅沢なもので、ゆったりとした曲調とも相まって、とてもリラックスできて、心置きなく和めるアルバムになっている。

でも、だからといって安易にレイドバックしているアルバムではない。例えばギターのつまびき方ひとつをとっても、70年代フォークの間を過剰にとって湿った情感を漂わせていくようなそれではない。ひとつひとつの音を適確に揃えて鳴らしていくもので、純粋にギターの響きの心地よさを追求したものだ。とても明快な出音である。エフェクトをかけるにしてもおざなりな処理はひとつもない。意識が隅々まで行き届いている。とことん音響的快楽に満ちたアルバムだ。曲調は懐かしくあっても、その響きは極めて現代的である。

そしてなにより本作は歌ものである。メインボーカルはIAとGUMIであり、どちらも気持ち良さげに歌っている/歌わせている。派手さはないが大変に味わい深い歌声だ。素直に耳に入ってくる。バックの演奏はそのIAとGUMIの歌を引き立てつつも、歌心があふれていて、きっちりと存在感を主張してくる。でも決して耳煩くない。IAとGUMIの歌とバックの歌心が絶妙にブレンドされて、ほっこりとした世界を形作っている。平穏無事に終わった今日一日の幸福をしみじみと噛みしめたくなるそんな2枚組。


配布先:まほろば - cruncheese2000 - BOOTH(同人誌通販・ダウンロード)








ロイヤル六法全書「こんなことはなかった事にしよう」


チープな打ち込み感モロ出しのシンプルすぎるリズムセクションに、チープなシンセとギター、チープなボカロ/UTAU音声モロ出しの歌声と、すべてがなんだかとっても安っぽいのだけど、聴いていると不思議に「これはこれでいいかも」と気づき始め、聴き終わる頃には「これしかない」と確信するようになるロイヤル六法全書のたぶん5枚目のアルバム。

ローファイサウンドの魅力を追求しているというより、人のある種の淡い心情は、こういうふうにしか表現できないし、これ以外にしたくないといった覚悟をスカスカな音の隙間から受け取る。その姿勢、とてもパンクである。高圧高密度で誇っているサウンドよりもはるかに過激である。

櫻歌ミコ、雪歌ユフによる歌は、どれも同じようであり、ひとつの曲を何度も聴いているようで幻惑されるのだが、⑨⑩はシングルとしてニコ動にアップされただけあって色合いが異なり、とてもキャッチーである。始まりはぼんやりとしていても最後はきっちり〆る。終わり方を心得ている。パンクである。


配布先:現在のところ東京未来音楽に在庫あり TOKYO FUTURE MUSIC









機材欲しいP「ここがそこ。」

ポストロックやヒップホップを聴いて育った現代の若いジャズ・ミュージシャンにロックをやらせると、当然ながら間のとり方やリズムの組み立て方、コードの当て方などが従来のジャズロックとは異なるものになり、新鮮で刺激的な新時代のロックが生まれうることを、つい最近全世界に知らしめたのはデヴィッド・ボウイの遺作「★」であり、本作はその「★」へのアンサーと言っていいものだと思う。その完成度は勝るとも劣らず。実に堂々とした作品だ。世界中の音楽家が目指し、ものにしたいと思っている音楽の確かないち形態だろう。先んじてここにあることが誇らしい。

ただし本作を知る者はとても少ない。一般のリスナーはともかく、ボカロを好むリスナーにもほとんど知られていない。機材欲しいPの他のアルバムと同様に本作も評価を下される以前の状況にある。ボカロとは何と不幸な音楽発表の場であることか。広く評価されるべき作品がものの見事に埋もれていく。もはや不運を通り越してギャグである。そのレア度を誇ることで、笑い飛ばすしかないのか。でもやっぱり、もうちょっと報われて欲しい。もうちょっと儲けてもらいたい。それだけのものを世に出しているのだから、もうちょっと色々な面でリターンがあっていい。

本作は前作まであったメロディの奔流が抑え気味となり、スタジオセッションを通して練り上げられたかのようなライブ感ある音作りが特色である。とても生々しい。全編にピリっとした緊張感もある。腕利きのミュージシャンとアレンジャーが録音スタジオでヘッドアレンジしている情景が目に浮かぶようだ。だが本作はひとりぼっち制作で、そのほとんどは打ち込みである(と思う)。生じゃない。でも、とても生々しい。アンサンブルは有機的でありエロチックでさえある。でも生じゃない。いったい音楽の「生」とは何なのか。肉体は必要なのだろうか。深く考えざるえない。

ボーカルは全曲雪歌ユフだ。堂に入った歌いっぷり/歌わせっぷり。なんというかもはやベテラン歌手の貫録である。歌い出しのタイミングをユフ自ら測っているかのようで、ボカロ/UTAUに阿吽の呼吸などあるはずもないけど、ここには阿吽の呼吸としかいいようのないものがある。なにもかもが絶妙。人間の歌手によるライブ一発録りと紹介されたら多くの人が疑いなく信じるのではないだろうか。それほどまでに歌唱がこなれている。

ここまで来たなら、人間が歌ったほうが話が早そうではあるが、人間では雪歌ユフの代わりは務まらない。歌い上げても歌いすぎない、熱を帯びつつも冷めているユフの特性を人間は真似することができない。雪歌ユフでなければこのアルバムはこのレベルで完成していないだろう。Pとボーカル音源、長くコンビを組み、作品を作り続けたからこそ到達できた高みである。


配布先:ここがそこ。 - チーム金星グマ - BOOTH








震える舌「BOMBs」

M3春にてSONOCAカード限定で頒布された2曲入りのシングル。注目は1曲目のトラックメイカーが個人的に追いかけ続けている neilguse-il氏であったこと。情景的でありながら夢の世界でもあるような氏の特色がよく出ていて、期待を上回るカッコ良さでした。画伯とミクのラップも冴えていて、二人が絡み合うとゾクゾク来ます。トラップ調のカップリング曲にも満足。フルアルバムが待ち遠しいです。(SONOCA限定はやめて!)


配布先:売れきれみたいね







比較的真理子「比較的真理子の死後」

こういうのを聴いて、こころを落ち着けたい時があるのですよ。なんか投げ遣りな紹介だけど、俗世間から離れたい時に、思いっきり浸かることで無になれる音楽というのは貴重なのです。僕には必要なもの。

配布先:比較的真理子の死後 | 真理子の部屋







冨田勲「ドクター・コッペリウス」

遺作である。ただし死後、プロジェクト・メンバーに引き継がれて完成に至った作品なので、冨田オリジナルがどこまでで、どこからがメンバーによるつけたしなのかはよく分からない。でも、あるパートだけが極端に弱すぎて全体のバランスが取れていなかったり、構成が緩慢で間延びするようなことにはなっていないので、印象としては過不足なく仕上がっている。余計な疑念なく聞き通せる作品だ。完成された冨田ワールドのひとつであろう。

個人的には「イーハトーヴ交響曲」よりも本作のほうが好きだ。やっぱりミクは限定された異世界よりも宇宙が、永遠が、無限がよく似あう。「トリスタンとイゾルデ」の肉感的で官能的なメロディが、ミクのハモりによって宇宙レベルの恩寵となる。スケールがバカでかくて大変によろしい。こうでなくっちゃ。最後を飾るミクの独唱はひたすらに美しい。まるで無限の幸福が永遠に続くようだ。逝ってしまいそう。いや逝ってしまいたい。

実際の舞台では、この音楽でバレエダンサーが踊るわけだけど、生で見た率直な感想を言わせてもらえば、その良さはよく分からないものだったので、僕はこの音楽だけで充分です。満ち足りてます。


配布先:Amazon CAPTCHA